準備の開始時刻は朝8時から集合場所は集会所
である。
私は5分前に着くように家を出た。
道すがら数人のご近所さんと一緒になった。
「今日は天候が危ないらしいね」
「不要不急の外出は避けてくれとテレビでは言って
るね」
「大丈夫か?今日は」
各メディアであれだけ天候に注意するように報じら
れていては、気にして当然である。
今のところは曇っているだけで雨も降っていないが、
数時間後には大崩れになるだろう。
集会所に着くと、他の皆さんも同様に天候に対する
不安を話している。
皆さんが天候を気にするのには理由がある。
約10年前の当地のお祭りの最中、この日と同様の
低気圧が来襲したことがあった。
台風並の雨と風が吹き荒れたのだ。
4月に台風並みとはちょっと信じられないようにも思
えるが、そういうことが稀にあるのだ。
その時の大風でお祭りの幟が2本ともビリビリに破れ
てしまった。
縦に細長く空気抵抗が少ない幟の布地が破れるの
だから、かなりの風だったのだ。
お祭りの幟である。
破れたままにしておくわけにもいかない。
新調することになる。
だが、こうした幟も安いものではない。
完全オーダーメードである。
布地に太筆の筆字で「○○神社奉献 ○○町内会」
と書かれる。
文字はプロの書道家の字のようだ。
それを日光や雨による劣化を防ぐ加工処理して幟に
仕立ててある。
単なるプリントなのか、それとももっと手の込んだもの
なのかはわからない。
問題は、その価格である。
何十万円もかかったそうである。
この具体的な金額は誰もはっきりとは言わない。
私は町内会員としては新顔なので、その当たりの経
緯はよく知らないのだ。
だが、ことあるごとに「あの時は大変だった」と聞かさ
れてきた。
その「何十万円」分に充てるために強制的な寄付が集
められた。
世帯割りだったようだが、それはかなりの金額を要求
されたようだ。
各戸にとっては突発的な支出となった。
懐が痛むとなると、感情的になるのは人間の性である。
その記憶も増強されるし不満も蓄積される。
集まった町内の方々は、不満・不安の大合唱となった。
「もし、今回も大風になって破れたらどうする!?」
「あんなの、もう嫌だ」
そんな声ばかりとなった。
~続く~