不二家憩希のブログ

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ドナルド・バード氏、ご逝去。その⑥

に加入後、すぐに頭角をあらわし評判を浴び始めた。
 自身のリーダー作は、どれも聞きどころがあり、
バードのバンドのピアニストとしても絶妙な演奏を
繰り広げていたからである。
 ジャズ界では「マイルス・デイビスがハンコックに
目をつけている」「マイルスを自分のバンドに勧誘
するのではないか」と噂が流れ始めた。
 火のないところになんとやらで、マイルス本人が
そう口にしたのだろう。
 その話はバードとハンコックの耳にも入ることとな
った。
 だが、これは引き抜き話である。
 バードはハンコックを呼び寄せてこう言った。
「いいか、もしマイルスが本当に電話してきたら、
『今は誰ともやっていない』って言いなさい。マイルス
が来いと言ったらすぐに行くんだ。それが君のためだ
からだ。マイルスにはパワーがある。君の足はひっぱ
りたくないんだ。俺の事は気にするな」
 バードは引き抜きに憤ることもなくハンコックを思い
やる言葉をかけた。
 そして引き止めるどころか快く送り出したのだった。
 バードとマイルスは同じトランペット奏者であり、同時
代のライバルといえる。
 その相手に自分が発掘した気鋭の新人を持って行か
れるのである。
 普通だったら怒りそうなものだが、バードは逆だった。
 ドナルド・バードとは器の大きい男だったのだ。
 バードの音楽にある温かさは、彼の人柄を反映してい
るからであろう。
 私が最も好きなジャズ・トランペット奏者・ドナルド・バ
ードは、そういう人だったのだ。