”刑事コロンボ”のシリーズ撮影が始まる前のこと
である。
ピーター・フォークは衣装合わせのためスタッフに
呼ばれた。
そこには、いろいろ衣装が揃っていた。
ユニバーサル・スタジオの衣装係であるから、世
界最高水準である。
だが、フォークはどれを見ても気に入らなかった。
フォークの感覚によれば「どれも在り来り過ぎた」
のだった。
そこでフォークは自宅のクローゼットから、スーツ
を持ってきた。
つまり自前、私物のスーツである。
それは青に白のストライプが入ったサッカー地の
夏物スーツであった。
フォークは衣装係に、そのスーツを茶色に染める
ように要請した。
コロンボ警部のあのスーツは元は青だったのだ。
青といっても濃い青ではなく、ストライプ入りのサッ
カー地なので、ごく薄い青だったのだろう。
サッカー地は、麻や絹で織られることもあるが、そ
の多くが綿だそうだ。
コロンボ警部のあのしゃがんだり、腰を曲げたりす
る動きでも皺があまりよらないところを見ると、おそ
らくコロンボ警部のスーツも綿だと推測される。
そしてコロンボ警部がシリーズを通して着ていたの
は、そのたった1着のスーツだけである。
自前のスーツを違う色に染めて役の衣装にするとは、
フォークのセンスには恐れ入る。
フォークの役作りは、やはり一味違うのである。
1㎜ストライプの青のサッカー生地。
コロンボ警部のスーツを見ると、染めたとはいえはっき
りとしたストライプが見えるわけではないので、おそらく
こんな感じの生地だったものと思われる。
~続く~