不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

オスカー・ピーターソンとその挫折なき人生。

 オスカー・ピーターソンと言う人は世界の音楽
でも稀な存在であった。
 彼は、音楽家人生においてデビュー前の下積みの
経験が無く、また有名になった後も人気の凋落や低
迷もなかった。
 シンプルなことのようだが、このような経歴の音
楽家は世界中のどの音楽ジャンルでも殆どいない。

 ピーターソンは、プロデビューの前にたまたま出
演していたラジオの生番組で演奏を披露していた。
 その演奏がカーラジオで聴いていた有名プロデュ
ーサーの耳に留まり、即プロデビューの話がまとま
ったのだ。
 直接、実演を聴かずにラジオ放送を聞いただけで
契約を決めたという。演奏の衝撃の大きさが伺われ
るエピソードであるが、こんな話は滅多にあるもの
ではない。
 そのプロデューサーが経営するレコード会社は大
物ミュージシャンを数多く擁する気鋭の会社である
と同時に、JATPと言う当時人気が沸騰していたオー
ルスターのジャズライブショーの興行も手がけてい
た。
 ピーターソンは、そのライブショーに新人として
は異例の出演を果たした。
 プロ野球で言えば、ルーキー開幕一軍先発出場の
ようなものである。
 その後ピーターソンは、カーネギーホールで正式
デビューを果たす。ジャズピアニストがカーネギー
ホールでデビューコンサートを行うとは前代未聞で
あるし、現在でも考えられないことである。
 レコードデビュー後もピーターソンの評価は上が
る一方で、彼はまもなく大物と目されるようになっ
た。
 彼のライブやレコードは常に大評判であった。
 ピーターソンに駄盤無し、と言われるようになっ
た。
 それから半世紀以上にわたってジャズシーンの頂
点に位置し続けた。
 仕事が暇になったことが無いのである。
 これは本当に珍しいことである。
 有名だったら仕事はいつでもある、と思われそう
だが、音楽家は必ずしもそうではない。
 暇な時代には、脚光も当たらないし誰も取材に行
かないのでその実情が知られていないのだが、音楽
家には暇な時代がある。
 暇と言えば呑気そうで良いが、同時に収入も無い
のだ。これは辛い。
 一般にはこういう時代のことを不遇の時代と呼ば
れるが、ピーターソンにはそんな時は一度も来なか
った。
 常に最高の会場で演奏し、チケットも完売だった。
  
 また有名になると、ドラッグやアルコール、多額
のギャラが絡むことになるマネジメントのトラブル
などで活動が低迷してしまう音楽家も多いのだが、
それも無かった。

 ピーターソンは、実に幸せな音楽家人生を送った。
 だが、一方ピーターソンの音楽が嫌いだ、と言う
人もジャズファンには少なくない。
 それは、ピーターソンの幸福のみに彩られた人生
とその音楽に共感できる部分が見出せないからなの
ではないか、と思われる。 

 幸せ一杯の人が万人に愛されると言うわけでもな
いし、不幸せの見本のような人が広く好まれるとう
こともある。
 人間はかくも複雑な存在である。
 エンターテインメントや芸術の世界は、このよう
に人の心情を明確に映し出すので接していて面白い
し、発見も多い。

 ピーターソンの公式サイトでは、音源も何曲か聴
けます。
一度訪れてみてはいかがでしょうか。