不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

家無き人の眠り

 その川は、当地の地名の由来にもなっている川で、その川
にかかる橋も当地の地名になっている。
 連休の今日も、当地は晴天で、その橋を走る車も家族連れ
が多い。
 河口から2kくらいのそこは、堤防が綺麗に整備され、遊
歩道になっている。
 犬と一緒に散歩する人や、ただ川を見つめている人もいる。

 ホームレスらしきその人は、荷物を横において、顔を雑誌
で覆い眠っているようだった。過酷で危険なホームレスの暮
らしの中では、夜は眠ることが出来ないのである。
 今年は、暖冬だったおかげで、冬を無事越せたのだろう。
 最低気温を記録す頃、駅前の地下道では何人もの人が亡く
なっていく。
 昼間はここで眠り、夜は地下道や繁華街へと移動するのだ。

 現在の生活を、普通に送っている人には分かりにくいが、
そういう人たちには、伺い知れない事情と言うものがある。
 人生に不幸が連続すれば、人は簡単に普通の生活から転落
してしまう。その不幸が、身体的なものであれ、社会的なも
のであれ、人の弱さには限りが無い。
 一旦、弱い立場に落とされると、その人は他人の踵を仰ぎ
見るような生活を強いられる。
 何も知らない人間は、ただ彼らを批判する。
 強い立場の人間は、常に薄情で思いのほか残酷である。
 彼らの顔は、靴を履く時でさえも下を向かないようだ。

 葉桜の木陰で眠りにつくその人の顔は、誰も見ていない。