石仏が三つ並ぶお寺の横の信号を抜けると、グレーと薄い青の
柄の割烹着を着たおばあさんが、車道を掃いている。
頭には白い日本手ぬぐい。
車に背を向けたおばあさんは、身をかがめて、歩道と車道の境
目を、丁寧に掃いている。
先日のお祭りの時の爆竹のカスを掃除しているのだ。
当地では、爆竹は道に向けて出すものと決まっている。人や車
が通ろうが、お構いなし。以前、NHKのテレビ中継があった時、N
HKのディレクターが驚いていた。ビビっていたと言った方が、正
確かもしれない。
このあたりは、寺町と言って、町内でも古い地区で、当地のお
祭りの中心地区である。お祭りの中心行事には、この地区の特定
の一族のみが、参加することが許されている。
別の言い方をすれば、他の人は、あくまで補佐役である。
そこは、政治力も経済力も手が出せない領域なのである。
このおばあさんも、お祭りの間は、とても忙しかったのではな
かろうか?
多数の来客の世話は、文句も言えず、ただ疲れる。
伝統の圧力は、休むことを許さないのである。
車道に出ているおばあさんを、車がゆっくりとよけて走ってい
く。
私の自転車も、寺町を抜けていく。
うつむいたおばあさんの表情は、見ることが出来なかった。