不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

スコッチテリアとすれ違う

 マクドナルド横の歩道橋を、自転車を押して上がっていく。
 階段を上がりきると、向こうから光沢のある白のウインドブ
レーカーを着た小柄の60代後半と思しきおばさんが、こちら
に来る。
 犬を連れている。黒のスコッチテリアである。
 ピンク色のリードに繋がれてはいるが、元気いっぱいで、飼
い主を引っ張っている。
 私は、犬は苦手である。嫌いと言うほどではないが、どうし
ても、外で犬に遭遇すると身構えてしまう。
 相手は、小さなスコッチテリアというのに、少し緊張してし
まう。

 昔、私の周囲では、飼い犬と言えば、雑種が殆どであった。
 うちの犬は、柴犬だ、秋田犬だ、と言ってはいたが、今、図
鑑などを見てみれば、それらは実は雑種であったことがわかる。
 それも、近所で貰ってくるか、拾ってくるか。
 洋犬を飼っている家は、滅多に無かった。

 当時は犬を売っている店が無かった。
 ペットショップはあったが、扱っていたのは小鳥や金魚。熱
帯魚を置いている店もあったが、どれも飼いやすい丈夫な種類
のものばかりであった。
 犬を買って来るという発想自体が無かった。
 
 自宅の飼い犬が、不義密通の子を産んでしまい、困った小学
生が学校に子犬を持って来る、といったことは度々あった。子
犬は子供たちに抱かれて、人気者になる。養子先は容易に見つ
かった。子供は、新しい家族を抱いて幸せに下校する。

 最近では、当地の地域のコミュニティも希薄になり、犬は店
で買うものになってしまっているようだ。
 地域のコミュニティの亀裂を狙って、商売人は侵食して来る。
 慣習は破壊され、新たな常識が植えつけられていく。
 ビジネスが、時代の基準となってしまっている。

 スコッチテリアを連れたおばさんが、私に気づくと、かがん
で犬を抑える。
「は~い、大丈夫ですよ~」
 私が、少々怖がっているのを悟られてしまったようだ。そう
は見えないようにしていたつもりなのに。

 私は、自転車を盾にして、犬とすれ違う。
 背中越しに、スコッチテリアが吠え掛かる。なりは小さくと
も、威勢はいい。
 私は振り返らずに、歩道橋の階段を降りていった。