ちょっと変わったメロディーに曲が流れてきた。
女性の声だ。
ちょっと甘えた声だ。
「うそつきカモメ」と歌っている。
うそつきカモメ?
ひょっとして小林幸子さんか?
私は歌手の小林幸子さんのデビュー曲が”ウソツキ鴎”というタイトルであることは知っていたが、曲そのものは今まで一度も聴いたことがなかった。
ちなみに私のより10歳ほど年長の知人は誰かが嘘を言うと「うそつき鴎か!」とツッコミを入れるのを常としていた。
それで私はこの曲名を知っていたのだ。
ラジオから流れる曲が終わった。
やはり歌っているのは小林幸子さんだった。
リリースは1964年、小林さんは10歳である。
10歳でこの歌唱力とは、まさしく天才少女である。
曲は古賀政男作曲でちょっと変わった曲構成である。
よくある日本風の旋律がただ繋げてあるだけのように聞こえる。
盛り上がりがあるようで無い。
古賀政男の曲としては変化球である。
これは歌うのに技量が必要だろう。
編曲も一風変わっている。
歌詞は日本風なのにそれを全否定するようなエキゾチックなアレンジである。
そして唐突に曲は終わる。
「そんな終わり方で良いのか!」と言いたくなる。
実に変わった曲である。
う~ん、これだけ歌えれば「美空ひばりの再来」と評されるのも当然である。
この曲はヒットし華々しく歌手人生が始まった。
だが、それも長くは続かず1979年の”おもいで酒”の大ヒットまで15年かかった。
その間、世間的にはほぼ忘れ去られた存在だった。
これほどの才能があって売れない時には売れない。
厳しい世界である。