入れた松之助師であるが、松之助師もいわゆる「落語
一筋」という人ではなかった。(以下敬称略)
そのキャリアの初期から舞台、映画、テレビドラマで
俳優として活動していた。
松之助は舞台映えするはっきりとした華のある容姿
の持ち主でオファーも多かったであろう。
舞台喜劇が活動の軸となっていた時期もかなりあっ
た。
日本では「その道一筋」という生き方が称揚される。
掛け持ちで他業種を同時進行させる人を重んじない
風土がある。
業界によってはその傾向がより強く反映されている
ところもある。
落語の世界では「何だ、役者ばかりやって」という陰
口もきかれたことであろう。
また、松之助は上方落語協会から脱会した過去もある。
自分の意に沿わない方向性に無理に合わせたくない
自由な感覚を持っていたのであろう。
おそらく松之助には自分が活躍できるのなら、環境は
いとわないという姿勢があったのではなかろうか。
そうしたこともあり、松之助は上方落語界では、その本
来の実力よりも低く見積もられるという時代が長く続いた。
これを不運と言うべきか。
否、そうではないだろう。
松之助は自分が信じる道を進む硬骨漢であり、その人
生には暗い影はない。
~続く~