フィル・ウッズが米国のジャズ・クラブに出演して
いた時のことである。
こんな声が聞こえてきたそうである。
「白い奴がバードのまねをしやがって」
その声は敵意に満ちていた。
バードとは、チャーリー・パーカーのニックネーム、
別名である。
ウッズは、その声がする方向を見た。
そこには、チャールス・ミンガスがいた。
ミンガスは、ウッズを睨みつけていたそうだ。
チャールス・ミンガスは、普通の人ではない。
いわゆる「危ない人間」である。
かつて所属していたデューク・エリントン楽団を暴
力沙汰で解雇された男である。
暴力をふるうことに躊躇のない人間だった。
ウッズは、ミンガスに対し特に反論はしなかったよ
うだ。
触らぬ神に祟りなし、といったところであろう。
ウッズは熱い男ではあるが、粗暴な男ではない。
紳士なのだ。
才能があり大活躍をしていれば、楽しいこともあれ
ば、そうでないこともある
このエピソードは、ウッズがビッグネームとなって以
降に明かされたものである。
その時には、ミンガスは既に没していた。
ウッズは「昔、こんなことあってなぁ」と懐かしそうに
語ったそうだ。
~続く~