昼間、家にいると外から声がする。
「おぅ、こんちは」
男の声である。
知らない声だな。
実際には当地の方言やイントネーションが混じ
っているのだが、そこは略させていただく。
それに馴れ馴れしい言い方だ。
誰だ?
私はそう言う時には、すぐに出て行かず「どちら
様?」と声だけで返答することにしている。
男はこう答えた。
「網戸の張り替えはどうかねぇ?」
網戸の張り替え?
そんな必要は今のところ無い。
ピカピカではないが、破れてはいないからだ。
私は出て応対することにした。
声の主は60代後半くらいの大きく腹の出た男
だった。
下は作業ズボン、上は下着の半袖シャツを着て
いるだけである。
作業ズボンはともかく、飛び込みセールスにして
は簡便過ぎる服装である。
「ここのあたりが弛んでいるような気がするけど」
男はそう言いながら網戸に近付いてきた。
えぇ~、弛んでいないぞ。
弛んでいるのは私自身であって網戸は普通に張
られている。
男としては何とか食い付きたいのだろうが、必要
もないことを頼むこともない。
私はきっぱりと断った。
すると、男はなおもこう言った。
「あそこに置いてある電子レンジ、片づけるんでしょ
う?」
道に置かれている電子レンジのことだ。
持って行ってやるぞ、という言い方だった。
でも、料金がかかるんでしょう?と私は言った。
「そりゃねぇ、今は何でもお金が要るんでね。役所に
頼んだって・・・」
私は男の言葉が終わる前に、再び断りの言葉を告
げた。
男は、私のそっけない態度にあきらめたのか、すぐ
に出て行った。
網戸は季節的にあり得る話である。
だが、電子レンジにまで食い付いてくるとは思いも
しなかった。
ご近所さんでも気がつかなかった電子レンジの存
在を、キッチリ確認していたのだ。
かえって余所の人の方が目につくのかもしれない。
そして、それを確信させる出来事が、その数日後に
起こったのである。