エンジニア・ロジャー・ニコルス氏は、エンジニ
アとしてだけでなく、レコーディングにまつわる数
々の発明も残している。(以下敬称略)
テープの修復技術、オーディオ・プラググイン、
史上初のデジタル・マイクロフォン、同じく史上初
のハイファイ・デジタル・ドラムマシン「ウェンデル」
といった発明である。
このウェンデルというドラムマシンは、197~8年
頃、アルバム「ガウチョ」をレコーディング中のステ
ィーリー・ダンのドナルド・フェイゲンの要望から生ま
れたものだった。
当時フェイゲンは「非人間的なまでに完璧なドラミング
が欲しい」と言う考えていた。
そこで、ニコルスは当時開発されたばかりのデジ
タル技術を用い、新たな装置を自力で作り上げた
のだった。
それは、ドラマーに太鼓を叩かせ、その音をデジ
タル録音する。
その音源を使ってリズムマシンを構成するという
ものだった。
サンプリングの先駆けである。
これは、今ではごく当たり前のことではあるが、
当時としては極めて画期的なことだった。
時は1970年代である。
第一、その頃は、それを動かすコンピュータが存
在していなかった。
ニコルスは、そのコンピュータそのものも自分で
プログラミングと設計をし組み立ててしまった。
そして、そのマシンのタイミングをキープために
原子時計を導入した。
ドラムマシンに原子時計とは、大袈裟な!とも思
える。
それに原子時計など一般には決して出回っては
いない代物である。
それらを全部自作してしまったのだ。
ニコルスの、原子力技術者としての力量が生か
されたエピソードである。