Nさんが言おうとしている「猿より怖いもの」が、
先日名古屋で起こった通り魔であることは、す
ぐにわかった。
被害者となった81歳の女性には抵抗した痕
がないことから、トイレで背後から襲われたと見
られている。
こんなことをされたら、誰だってどうにもならな
い。
確かにこれは猿よりも怖い。
猿だったらせいぜい噛み付かれるか、引っ掻
かれるである。
猿がいくら賢くても刃物を振り回すことはない。
このニュースは70歳代のKさんには衝撃的だ
ったようだ。
「何だか怖くてね。夜も暑いもんだから網戸を開
けて寝たいんだけど、それも出来ないわ」
どうやら、ご夫婦揃って滅入っているようだ。
うぅ~ん、名古屋のニュースが当地にまで影響
を及ぼしているということか。
そこで私はこう言った。
「そういう時は私が駆けつけてやっつけてやりま
すよ」
そうは言ったが、私には刃物を振り回す危険人
物と対峙した経験は無い。
だが、何故か、そういう事態になっても何とかや
れる、という自信があるのだ。
どうしてそうした根拠の無い自信があるのか、と
いうことにはうまく説明できないが、以前からそうな
のだから仕方ない。
「そう?それじゃぁ、何かあったら大声出すからね」
Kさんはそう言った。
「まぁ、任せといてください」
私は偉そうにそう言った。
普段はヘナチョコでもそういう事態になれば何とか
なるだろう。
私は火事場の馬鹿力を信じているのだ。
だがそんな「猿より怖いもの」が出現しないに越した
ことは無い。
Kさんの話を聞いて、本物の猿が可愛く思えてきた。