不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

町内会の委任状を集めて回った。その⑨

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 通りを歩いているのは黒のコートを着た小
柄な女性である。
 私は後姿だけでは確信が出来ないが、あれ
はSUさんに違いない。
 私はすぐに追いつき、声をかけた。
 SUさん?
「あぁ、こんちは!」
 すみません、町内会の用事でさっき伺った
んですが、お留守だったみたいで。
「そう、ちょっと散歩に行ってたからね」
 二言三言話しながら歩いていると、すぐに
SUさんの家に着いた。
 SUさんは、ゆっくりとしゃがみこんだ。
 そして玄関先に置いてある植木鉢の陰に手
を入れた。
 ひょっとして、家の鍵を取り出そうとして
いるのか?
 後ろで私が見ていますよ。
 だがそんなことはお構い無しのようだ。
 SUさんは、鍵を摘み上げると、ドアを開
けた。
「ちょっとパチンコ屋に行ってたのよ」
 実はSUさんはパチンコ好きなのだ。
 このことは以前、母から聞いたことがある
のだが、本人の口から聞いたのはこれが初め
てである。
 それにしても女性が「自分はパチンコ好き
だ」と人前で言うのは珍しいと思う。
 そんなことを言うのは中村玉緒椿鬼奴
らいのものだ。
 だがSUさんは一般的なパチンコファンと
は少々違う。
 打っていても「今日は駄目だ」と思ったら
すぐに止めて帰る。
 パチンコ屋に行ってもホールを見渡して
「今日は出そうもないな」と思ったら、何も
せずに帰る。
 玉が出た時も、ほどほどのところで切り上
げるのだそうだ。
 SUさんはパチンコをやっていても決して
熱くならないのだ。
 これはなかなか難しいことだと思う。
 そのためSUさんはパチンコで損をしたこ
とは無いそうだ。
 SUさんは、ただのおばあさんではなく、
非凡な性格の持ち主なのだ。

 ~続く~