不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

線の切れ目が縁の切れ目。その⑫

 S電器店の主人は、外見上は特に慌てる様
子も無かった。
 だが、人の内心は見た目ではわからないこ
とが多い。
 テレビドラマなどでは、大きな表情の変化
や印象的なセリフで感情を表す。
 だが、現実社会ではそのようにわかりやす
い反応をする人は殆どいない。
 私がドラマとかを殆ど見ないのも、そのた
めである。
 あんな人達、現実にはいるわけない、と思
ってしまうからである。
 主人は「ちょっと待って」と言いながら店
を出た。
 店舗から少し離れた場所にある駐車場に向
かうらしい。
 私はそのあとを追った。
 駐車場に着くと主人は、軽ワゴンの助手席
を探し出した。
 そして、少し離れていた私の所に来た。
 手にはプラグを持っている。
 私はそれを無表情で受け取った。
「作業の時に間違って工具入れに入れちゃっ
たみたい」と主人は言った。
 アホか、この主人は。
 咄嗟に思いついた嘘なのだろう。
 だが、私には通じない。
 本当に間違って無意識に工具入れに入れた
とすれば、プラグが工具箱に入っていること
すら気が付かない筈である。
 それを私が来てすぐに事情を察し、プラグ
を返すのだからこの男はわかってやっていた
のだ。
 仮に間違って持って来たのなら、すぐに返
しに来るだろう。
 お客の家の物を黙って持って来て平気でい
られるのだから確信犯である。

 私は無表情で受け取ると、主人の顔も見ず
にその場を離れた。
 悪党と同じ場所にいると自分も穢れるから
である。

 今後、S電器店の主人がどうなるかは、彼
自身の運命に任せることにしよう。

 滅びる者は、自らの行く末を知っているの
である。