不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

ランニングシャツのおじいさん

 9月になれば少しは涼しくなりそうなものなのだが、
自然は暦にお構いなしに暑さを人間に見舞ってくれる。
 こんな暑い時には、気楽な格好が一番である。

 郵便局の本局の前の交差点の信号待ちをしていると、
郵便局前の花壇の陰から、ひとりのおじいさんが姿を
見せた。
 そのおじいさんは、80代くらいだろうか。
 お年寄りの年齢は実に個人差が大きいので、大雑把
な推測しか出来ないのだがおそらくそのくらいだろう。
 おじいさんは、麦わら帽子に白のランニングシャツ
ベージュの半ズボン、素足にビーチサンダルである。
 これでリュックサックを背負っていたら正しく山下
清である。
 これ以上は簡潔には出来ないほどのスタイルである。
 市の中心部であるこの辺りを歩くにしては、思い切
ったとも言えるほどのくだけた装いである。

 暑い時には涼しい服装をすることが一番機能的であ
ることは、十分理解してはいるのだが、それがなかな
か出来ないものである。
 意識するつもりは無いものの、やはり他人の目とい
うものが気になったりする。私ですらそうなのだから、
他の方々はもっと気にかけていることだろう。
 他人の目が他人を裁いているのだ。
 そうすることにより一定の風紀を守っているという
側面があるとは思うのだが、それも程度にもよる。 
まず他人はどう思うかを気にしてから服装を決定する
ということになってはいないだろうか。
 服装は他人への思いやりでもあるのだろうが、それ
が醜い自己拡張の手段になっていることもある。

 だがそんな思惑もある程度の年齢に達すると、もう
どうでも良くなってくるのかもしれない。
 暑いのだから、涼しい格好で行くのだ、と心から言
い切れるというのは素晴らしいことである。

 そのおじいさんは、飄々として横断歩道を渡って行
く。 
 体のどこにも力が入っていないようだ。
 老人でそういう人は珍しい。多くの人は、年をとる
と体に余計な力が入ってしまい硬直した人が多いのだ
が、このおじいさんにはそんな一般例は関係ないのか
もしれない。
 
 私はそのおじいさんをゆっくりと追い越して、目的
地に向かった。
 残暑は、まだ続きそうである。