おばあさんたちと歩道橋で

　先週、気象庁は「この暑さは、もう２～３日です」とか
言っていた。とっくに、その２～３日は過ぎているのだが
今日も暑い。
　私はここのところ天気予報は見ていないので、予報の変
更があったのかもしれないが、ぬか喜びをさせる気象庁は
罪な組織である。
　
　私は、国道の歩道橋を自転車を押して上ろうとしていた。
　見上げると、おばあさんの二人連れが階段をゆっくりと
上がっていくところであった。
　歩道橋の階段は、上り側から見ると右側が階段で左側が
自転車用のスロープになっている。
　おばあさんたちは、その階段とスロープを左右に行った
り来たりしながら上がっていく。階段よりもスロープの方
が楽かも、とそちらを上がってみるが、そうでもないので
また階段側に戻ったりしているのだ。
　階段をジグザグにゆっくりと上がっていく。
　おふたりとも礼服を着ておられる。
　この方向の先に結婚式場は無いので、法事に向かわれる
のだろう。
「ひゃー、こんな階段上ったこと無いよぉー」
「ほんと、暑いねぇー」
　この暑さに黒服は堪えるのではなかろうか。
　それでも、ふたりとも何か楽しそうに階段を上がって行
く。
　一人だと暑くて嫌になってしまうところだが、お連れが
いるので気分も随分違ってくるのだろう。
　お二人がやっと階段を上りきったところで、私と自転車
がお二人に追いついた。
　するとおひとりが私に気が付き、ひらりと身をかわして
道を譲ってくれた。身のこなしは、平地では軽いのだ。
「すみませんねぇ」とそのおばあさんは声をかけてくれた。
　いえいえ、そんなこちらこそ。
　
　年をとると女性の方が男性よりも友達付き合いは上手な
のかもしれない。
　おばあさんたちが、楽しそうに行動を共にしていること
はよく見かけるのだが、おじいさんは大体が単独行動であ
る。
　二人連れのおばあさんはいても、二人連れのおじいさん
は存在していないようなのである。
　男の方が全般に付き合い下手なのかもしれない。
　男は何かとその付き合いに仕事や組織を絡めてしまうの
で、現役を引退してしまうと一気に付き合いの幅が狭まっ
てしまう。
　仕事や組織抜きでどうやって他人と付き合ったらいいの
か分からないでいるのだと思う。
　その点、女性は年をとると一層付き合いに厄介なものは
持ち込まなくなるので、上手に付き合えるのではなかろう
か。
　男は、いつまで経っても昔の自分を引きずっているので
身動きが取れないのだが、女性は身軽である。

　おばあさんたちは、おしゃべりをしながらゆっくりと歩
道橋を歩いて行く。
　暑くても楽しそうにしている人達を見ると、こちらの気
分も軽くなる。
　私は、おふたりとは違う方向に向かって、歩道橋の階段
を降りていった。