ちょうどその時、お隣のNさんが洗濯物を干し始めた。
顔を合わせたので立ち話が始まった。
「ホント暑いねぇ~」
「嫌になっちゃう」
Nさんはうんざりしているようだった。
これになんと応えようか?
そうですかね。
でも、昨年よりはマシだと思いますけど。
私は正直にそう応じた。
「えぇ~、そうなの~?」
「今年の方が暑いと思ってた」
Nさんは九州の特に暑いところの出身ではあるが、暑さ
に強いというわけでもないようだ。
それは、そうだろう。
動物じゃあるまいし。
”南国育ちは暑さに強い”、といった単純なことを思い浮
かべるのは愚かな私ぐらいのものであろう。
「私、年だもんだから去年の暑さを忘れちゃったのかもね」
おっと、Nさんが自虐ネタを放った。
普段自虐ネタ専門の私は、逆に受けに入ると弱い。
なんと返事をしたら良いのか?
私は戸惑いつつ稲川淳二のように「イヤイヤイヤイヤ」と
おどけた感じで否定した。
そうか、今年の方が暑いと感じている人もいるのか。
人それぞれだなぁ。
私はそのまま自転車でいいえを出て走り出した。