地域の特定を避けるためである。
「僕は、もう町内の役は一切やらないから!」
SHさんは町内三役の方を向いてそう言った。
会長さんに向けた言明ということではなさそうだ。
特に誰に向かってという様子でもない。
たまたまそちらの方を向いていただけなのかもしれな
い。
あるいは町内会全体に対する言葉なのかもしれない。
その声は少し上ずっていた。
力がこもった強い決意が聞き取れた。
「もう町内の役をやるのは懲り懲りだぁ」とか言う声は、
SHさんでなくともこれまでにもよく聞かれた。
「もう二度と役はやらんぞ」という声も上がったりする。
だが、それらは半分冗談交じりで本気100%ではない。
一度そう口に出してガス抜きしないとやってられない、
という心情があるのだ。
今回のSHさんはどうだろうか。
本気でそう言っているようである。
SHさんは、こうしたことを人前で言い切るような人では
ない。
普段から物静かな紳士である。
そのSHさんに、そう言わせた理由ははっきりしている。
~続く~