不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

Aさんと班と皆さん。その②

 Aさんの通夜の日、私は通夜には参列しなかった。
 そういう暗黙の申し合わせがあったからである。
 その夜7時半、通りにクルマが停まり女性の声が聞こ
えてきた。
 「今日はどうもありがとうございました」
 「それじゃ、またね」
 この声はNさんとKさんの声だ。
 通夜に行ったらしい。
 Nさんは班長として顔を出した、Kさんは古い価値観も
持っている方なので参列したということのようだ。
 通夜に参列と言うことは、告別式にも出るのだろうか?
 翌日は日曜日だった。
 告別式の開式は11時からである。
 11時5分、Kさんが回覧板を持ってこられた。
 この時刻に此処にいるということは、告別式には出な
いということである。
 なんだ、出ないのか。
 私はSさん宅へ回覧板を持って行った。
 旦那さんが庭に立っている。
 私は回覧板を手渡す。
 笑顔満面でいつになく機嫌が良いようだ。
 11時15分、Sさんの奥さんが回覧板を持ってNさん宅
へ来られた。
 SさんとNさんが談笑している声が聞こえてくる。
 あぁ、Nさんも告別式には行かなかったのか。
 NさんもKさんも参列したのは、通夜だけだったようだ。
 「来てほしくない」と言われたのか、あるいはそういう空
気を感じ取ったのか。
 NさんSさんKさんと皆がにこやかだった。
 この時間にご近所さんの告別式が進行中とは思えない
様子、表情である。
 あぁ、皆さん直接口には出さないものの、思っているこ
と感じていることは同じなんだなぁ。
 拒絶すれば拒絶される。
 これは法則であるから仕方ない。
 Aさんのこの世からの去り方は寂しいものであった。