私はネット・ラジオを聞いていた。
女性歌手の歌である。
これはボサノバか。
それも割と最近の音に聞こえる。
ゆったりとした演奏をバックに聞き覚えのある声が
流れていく。
だが、この歌手は、もう随分前に亡くなっている。
それに、ボサノバのような音楽は歌ったことはない
はずだ。
だが、どう聞いてもあの歌手の声だ。
フレーズを引っ張る特有の歌い方である。
「これは一体誰だ?」
調べてみる。
ビリー・ホリディだ。
やっぱり、そうか。
となると、この録音はどうなっているのか?
ホリディのかつての録音からデジタル技術によりホ
リディの声だけ取り出す。
その声に合わせてアレンジを施し、現役のミュージ
シャンがバックをつける。
歌が先にあって録音は後録りということである。
それをレコーディングをする、という企画だそうだ。
ビリー・ホリディの時代には、ボサノバは存在してい
なかった。
ホリディにボサノバを歌わせる、というのは面白い試
みだとは思う。
仮にホリディが現代に生きていても一流の歌手とし
て活躍したであろうことは、この録音で確認できる。
しかし、バックが変わろうともビリー・ホリディはビリー・
ホリディである。
あの粘りつくような歌唱法は同じである。
怨念タップリのドロドロ唱法である。
湿度タップリのジメジメ音楽である。
私は苦手である。