不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

活を入れられたマイワシ。

 名古屋港水族館は、日本屈指の大型水族館である。
 展示物も充実しているという評判である。
 その中でもイワシの一種マイワシが竜巻状にエサを
食べる「マイワシのトルネード」は、同水族館の目玉の
ひとつである。
 巨大水槽内でマイワシが竜巻状に泳ぎながらエサを
食べる。
 これはマイワシが生来持っている野生の智恵である。
 マイワシに限らず野生動物はエサを食べている時が
最も無防備になる。
 そこでマイワシは、大群となりエサを追いかけること
により天敵からの攻撃を回避しようとしている。
 大群を編成し自分たちを大きく見せるという行動は、
イワシだけでなく渡り鳥など鳥類においても広く見ら
れる。
 この手段はそれなりに効果があるのか、捕食されや
すい立場にある野生の生き物には欠かせないものとな
っているようだ。
 だが、ここに人間が介在するとその様子は変わってく
る。
 名古屋港水族館のでは自然の黒潮の海を再現すべく
同じ巨大水槽内にマイワシと一緒にマグロやカツオも入
れている。
 これでマグロたちがマイワシを追いかければ、水族館
の目論見通りである。
 群れを成して泳ぐマイワシとそれを追いかけるマグロ
やカツオの姿は好評を博していた。
 だが、この半年ほどの間にマイワシの中に異変が見ら
れるようになった。
 ほんの数匹だが群れから離れて泳ぐマイワシが出始
めたのだ。
 これより、来場者から「マイワシはたるんでいる」「緊張
感が薄れている」と言われるようになった。
 どうして、そうなってしまったのか?
 水族館では、マグロ達にマイワシを追ってもらいたい反
面マイワシを食べ尽くされても困る。
 そのためマグロ達には餌を大目にやり、常に満腹状態
にしていたそうだ。
 満腹だと形ばかりは追いかけるが、捕食まではしない。
 どうやらマイワシもそのあたりの事情を理解しているよ
うだ。
(どうせ、食われないから大丈夫)
(群れからはぐれても、餌にはありつける)
 そう思っているのでは、と担当者は語っている。
 群れになって泳ぐのは、それなりに辛いことなのかもし
れない。
 これはまずいと判断した水族館は、奇策に出た。
 マイワシの天敵クロマグロの投入を決めたのだ。
 このクロマグロ三重県南伊勢町で蓄養されていたもの
で、当初15匹の予定であったが搬送時に4匹が死んでしま
った。
 三重県から隣県である愛知県名古屋市に移動するだけで
4匹も死ぬとは!
 マグロは実はとてもデリケートな魚なのである。
 11匹のクロマグロは、水槽に入れられた。
 その直後からマイワシの動きに変化が見られるようにな
った。
 泳ぎが速くなり、群れの形の変化のペースも早くなった。
 担当者によると「いつもより緊張していますね」とのことだ。
 果たして、これでマイワシに活が入ったのか。
 いろいろと考えさせられることが多い話題である。