不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

線の切れ目が縁の切れ目。その⑦

 翌日、S電器店が我が家に来る予定の時間
になった。
 だが、来ない。
 10分待つ。
 なおも来ない。
 もう10分待ってみる。
 それでも来ない。
 もう来るだろう、と思って10分待ってみ
るが、来ない。
 私はそれほど時間に厳しい方ではないと思
うが、30分は遅い。
 この時刻はこちらで指定した時刻ではなく、
電器店が決めたのだ。
 何か急に予定が入ってしまったのだろうか。
 それからさらに30分待った。
 まだ来ない。
 私はしびれを切らしてS電器店に電話を入
れた。
 電話に出た従業員によると、もうあと2時
間後くらいになる、とのことである。
 そんなこと今になって言うなよ!と思った
が、ここで起ってきてもらえなくなると、こ
ちら困る。
 何しろこちらは漏電寸前の電灯線があるの
だ。
 おとなしく待っていると、S電器店の主人
がやって来た。
 この主人は、ビデオデッキの調整の他にも
テレビを買った時にも設置に来たことがある。
 主人は、簡単に電灯線の様子を見るとクル
マに戻り、小さなはしご持って来た。
 それから、ブレーカーを落とすと工事を始
めた。
 主人は電線の切りカスを床に落としていく。
 私はそれを見ていて後で軽く掃除していく
のかな?と思ったのだが、結局主人はそのま
まにしたままだった。
 工事は10分ほどで終わった。
 代金を尋ねると、3000円とのことだっ
た。
 私は家を出る主人を見送り、部屋に戻った。
 電線の切りカスを片付けた。
 テーブルには、それまでぶら下がっていた
電灯線が置かれていた。
 掃除をしていると私は部屋にある筈のモノ
が無いことに気が付いた。
 あの主人が持って行ったのか?
 持って行ったと言えばニュアンスは優しい
が、この場合は窃盗である。
 何故私がすぐにそう思ったのか、にはそれ
なりの理由がある。

 それは10年前にさかのぼる。
 
 ~続く~