置き薬の会社の人が来た。

　「世界の快適音楽セレクション」を聴いて
いると家に誰かが来たようだ。
　あ～、いいところなのに。
　お客は、置き薬の会社の人だった。
　我が家では昔から置き薬をしている。
　この会社の薬は、どれも強力な効き目は無
く少々時代遅れな感じがするものばかりであ
る。
　パッケージも完全に昭和風である。
　だが、かえってその方が安心して服用でき
る気もする。
　しかし、私はここ数年薬は飲んでいない。
　父母は普通に服用していたようだが、私は
薬はあまり飲まない。
　風邪も引かないし、腹痛にもならないから
だ。
　頭が良くなる薬でもあればじゃんじゃん飲
むだろうが、残念ながらそんな薬は存在して
いない。
　私は、置き薬の箱を持ってきた。
　置き薬の会社の人は、箱の中を調べ始めた。
　一錠も飲んでいないので、変わりは無いは
ずだが、未開封で期限切れのものがあれば取
り替えてくれるので私は黙ってそのまま見て
いた。
「はい、変わりは無いようですね」と置き薬
の会社の人は言った。
「それでは、またよろしくお願いします」
　そう言ってその人は帰って行った。
　せっかく来てもらったのに、収穫が無くて
申し訳ない気もするが、飲まないものは仕方
が無い。
　私は置き薬の箱を元の場所に持っていった。
　この冬も、この置き薬のお世話にならない
ように過ごせたら良いと思う。