不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

ダルメシアンの逃走

 この時期、当地ではどこかでお祭り。
 当地は江戸時代に天領だったこともあり、花火製造が盛んであ
る。製造が盛んだと、花火が割安に手に入るのか、どの町内も、
ドカンドカンと花火を打ち上げる。
 朝6時から、夜遅くまで、年に一度、打ち上げ放題である。

 数年前、こんなことがあった。
 両親の古くからの知人が、市内に住んでいるのだが、そこで飼っ
ているダルメシアンの老犬が、鎖を引きちぎって逃げ出したのだ。
 原因は、打ち上げ花火の音に怯え、パニックになって逃走したら
しい。らしい、というのは、犬と話をしたわけではないので、確実
なことは言えないが多分そうだろう、まず間違いないということで
ある。
 犬の聴覚は、人間のそれをはるかに超えており、人間の不可聴領
域も犬には聞こえるらしい。
 4月になると、週末にはドカンドカンと打ち上げられる花火の音
に、犬は相当参っていたようだ。しかも、犬は庭の犬小屋暮らし。
音は相当響いていたのだろう。
 犬は、あー、あの音は花火だなぁ、とは分からないから、その心
労は想像以上のものがあったに違いない。

 飼い主は、近所を訪ね歩いて探したのだが、見つからない。犬だ
から、帰巣本能とかで帰ってきそうなものだが、帰って来ない。
 飼い主は、松村和子のヒット曲を歌ってやりたい心境だったかも
しれない。
 だが、ダルメシアンという皆が知ってはいるが、実際に飼われて
いるのをなかなか見ない犬種であったこともあり、1週間後には、
逃亡先で保護しておられた方が、わざわざ家まで連れて来てくれた
そうだ。
 その犬を匿っておられた方の家は、知人が捜し歩いた方向とは全
く逆にあり、距離も思わぬほど離れていた。だが、ダルメシアン
探している家がある、という話を耳にし、犬を連行してくれた、と
いうのであった。
 ディズニー、恐るべし。
 これが、他の犬種であったら、こううまく話が進んだかどうか。

 庭に打ち込まれていた鎖は、形だけのものではなく頑丈なものだ
った。それを引きちぎってでも逃げ出してしまうのであるから、犬
のストレスは相当なものだったのかもしれない。
 あるいは、それはストレスと言うよりも恐怖だったのかもしれな
い。
 そして、この犬は自分の家への道も分からなくなっていたらしい。
 それとも、分からなくなったふり、をしていただけなのか?

 ストレスや恐怖からの逃亡は、人間の日常の行動の基本原理のひ
とつになっており、この犬だけのものではない。
 ただ、人は、とりあえず逃げ出して、帰ってくることをしない。
 逃げ出す先は、犬と違って趣味や仕事やレジャーや人間関係等々、
各種ある。
 犬は、ただ駆け出すだけだ。

 このダルメシアンは、それからしばらくして亡くなった。
 逃走の原因は、その犬と話をした人間がひとりもいないので、い
まだ推測の域を出ないでいる。