風が吹くたびに、桜の花びらが舞ってくる。
時にそれは、桜吹雪になる。
丁度そこに居合わせると、幸運な気分になる。
目の前をゆらゆらと落ちてくる花びらを見ていると、自分が、
杉良太郎になったような気分がしてくる。
桜は、散り際にもそんな愉快な錯覚をもたらしてくれる。
橋を渡ると、川面は、堤防沿いに植えられた桜の木の花びら
で覆われているのが見える。
流れのゆるいどんよりとしたその川は、沈み込んでいくよう
な暗い川底を花びらで隠している。
そこから少し離れたところにある一番遅く咲いた木は、やは
り遅くまで花を残してはいたのだが、それもこの週末までだろう。
吹き溜まりは、既に花びらで埋まっている。
この風と未明からの雨が、花びらを完全に落としてしまうだろ
う。
あるいは、それは風や雨のためではなく、あらかじめ組み込
まれているプログラムが、淡々と進行していくだけなのかもし
れない。
そこに人智と心が介入する余地など、無いのかもしれない。
寂しいが、それも仕方がない。
こうした感傷は、人の心によるものであるが、その心もまた、
自然に属しているのである。
散ってしまうことは、初めから分かっていることなのである。
それは、人の一生も同様である。