不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

また1軒消えていく

 私の自宅から5分ほどのところの通りにある、洋品店が取り壊されていた。
 木造の土壁が、折からの強風に土煙を上げ、日に焼けた外壁のトタンが折れ曲がっていた。
 この洋品店は、我が家にはお馴染みの店であった。
 今のように大型店舗なども無く店も少なかった時代、家族の衣料品の殆どは、この店で購入していた。
 両親の衣料品も子供である私のものも、この店で買っていた。昔はそういう店がどこにでもあったのである。
 私も幼児の頃から母に連れられて、この店で買い物をした。今から思うと商品選択の余地は、極めて狭かったのではあるが、それでも楽しかった。
 その店でしか買わないのであるから、我が家の衣料品は、インナーからアウターまで、この店のご主人に握られていた、ともいえる。
 だが、時も移り、大型店や各種特化された品揃えをする店が市内のあちこちに出来始めると、家族はそれぞれ、自分が気に入った店に行くようになり、その洋品店に買いに行くことも減っていった。
 価格や品揃えで気に入れば、昔からの馴染みの店のことなど、簡単に忘れ去ってしまう。
 消費者は,薄情である。我が家も例外ではなかった。店から見れば、ある種、冷酷なのかもしれない。

 私の子供の頃の懐かしい思い出とともに、その洋品店は消え去っていく。
 物が沢山あれば嬉しい、という原始的な考えからの脱皮していかねばならない。