ここは、班内の最高齢のご夫婦である。
年はいっていても、今ひとつ常識と、マナーに欠ける
点があるのが残念である。
奥さんは、通夜、告別式においておしゃべりをしっぱ
なしなのだ。
年長なので誰も注意ができず、事実上の放置である。
自らの死が近いであろうことは、その年令を見れば
わかりそうなものなのに、死は遠い別世界の出来事の
ように考えている。
気の毒な人である。
ドアフォンを押すと、玄関から声が聞こえる。
奥さんがカレンダーに何か書き込みをしている。
私は寄付金の件の説明をし封筒を手渡す。
奥さんは、別室に消える。
ここのお宅は、護国神社の寄付に関しては毎年他の
お宅よりも多めの寄付をされる。
少しして奥さんは戻ってきた。
封筒を受け取る。
奥さんはこう言った。
実際には当地の方言混じりなのだが、ここでは標準
語に訳して記す。
「最低100円だからね。『いくら?』って聞かれたら
『100円です』って答えればいいのよ」
えぇ~、なんだそりゃ?
そんなこと、あなたが決めることではないだろう。
こういう発言を平気でする人なのだ。
「うちは、今年は300円入れた」
誇らしげである。
そして、こう続けた。
「どうして、多く入れるかというと長男を祀ってもらっ
ているから」
え?そうなのか?
初耳だ。
私が知らなかっただけなのだろう。
年齢からすると大戦ではなく殉職自衛官か?
奥さんは私から何か特別なリアクションを期待して
いるようだ。
だが、私は「そうですか」と平坦に告げただけであ
った。
~続く~