不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

「一緒に書きましょう」

 私は用事で最寄りの郵便局に来ていた。
 私が着くとお客は私の他に60代前半くらいの男
性が一人いた。
 その男性はカウンターで女性局員と話をしている。
 「では、この伝票に住所とお名前をお書きください」
 女性局員はそう言って伝票を指し示した。
 男性は小さな声でこう言った。(実際には語尾や
イントネーション等に当地の方言が混じっているが、
ここでは共通語に訳して記すことととする)
 「ちゅうきで手に力が入らなくなって、うまく書けな
いようになっちゃって」
 弱々しい声だった。
 最後の方は消え入りそうになっていた。
 その声には局員が代わって書いて欲しいことを暗
に示すニュアンスがあった。
 女性局員は困ったようではあったが、その男性が
書くようにと繰り返した。
 これは規則なのだろう。
 配送伝票等は、当人が記す、例外は認めない。
 郵便局でなくとも、この規則を徹底している各種団
体、流通小売業などは多い。
 少し沈黙があった後、男性は自分で書くことを了承
したようだ。
 椅子座ってペンを握った。
 すると、この郵便局の局長が、カウンターの中から
出てきた。
 そして、その男性の横に立ってこう言った。
 「〇〇さん、すみませんね。では一緒に書きましょう
か」
 「〇〇さんがお書きになった字で読み辛い箇所は
私が補正します」
 おぉ、そういう手があったのか。
 この局長はなかなか融通が利くなぁ。
 規則は守りつつも、お客さんの様子に合わせて行
動する。
 幸い、他にお客は私しかいない。
 手助けすることは十分可能な状況である。
 こういう対応は、昔ながらの郵便局ではよくあった
と思う。
 臨機応変な地元密着のサービスである。
 それが今でも残っているのか。
 郵便局内には地元ならではのゆるく暖かい雰囲気
があった。
 私は用事を済ませて、嬉しい気分で局を出た。