不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

全額寄付。

 その初老女性の兄は三年前に亡くなっており独身
で子供が無かった。
 彼には不動産を中心とした遺産が残された。
 その額、55億円。
 兄は遺言書を残しており、それは遺産の全額を宗
教法人に寄贈すると言うものだった。
 その宗教法人はS学会であった。
 
 それだけの遺産があると、残された血縁である兄
弟も、ひょっとしたら、という気にもなるのであるが、
遺言で寄贈先を指定されてしまっているので、法的
にはどうにもならない。
 それで、その遺産は遺言どおりS学会のものとなっ
た。
 55億円も遺産があれば、血縁であればほんの数
%でも良いからもらえないかな、と思うのが人情で
ある。
 たとえ1%でも5千5百万円である。
 これが、遺言書が作成されていなかったら、兄弟
やその子供、つまり甥や姪にも遺産受け取りのチャ
ンスがあったのだが、遺言書がきっちり作られてい
てその寄贈先が指定されていたのでその機会は来な
かったのだ。
 手に出来たかもしれない額を思うとがっかりな気
持ちもないわけではないが、遺言書が存在していて
はあきらめるより仕方がない。

 人様の遺産なので、私にどうこう言う資格はない
のだが、全額を宗教法人に寄贈するとは随分思い切
ったものだと思う。
 彼の人生をそれほどまでにS学会が支えてきたのだ
ろうか。
 血縁者たちも、その兄に生前にもう少し親切にし
ていれば、少しは遺産をもらえていたかも、と考え
はしないのだろうか。
 否、十分親切にしていたのだけれども、その兄が
その宗教に入れ込みすぎていたから、どうしようも
ないのだ、ということなのかもしれない。
 
 個人の資産が55億円という額は、私にとって初
めて遭遇する大きさだった。
 それだけの資産があってもS学会に入れ込んでしま
うのだから、人間の煩悩とは、かくも巨大なものな
のであろう。

 残された兄弟は、遺産を手に出来ずもう笑うしかな
い、という感じだった。 
 しかし彼らは、噴出する欲の嵐に巻き込まれなくて
良かったのかもしれない。
 亡き兄は、それなりの見通しを持って全額を寄贈し
てしまったのかもしれない。