不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

移動選挙事務所

今日も朝一番から、この町内から立候補している候補者の選挙カ
ーがやって来た。
「本日、カルチャーセンターにおきまして、移動選挙事務所を開設
致します。皆様、どうぞ、ご参集下さいませ」
 えー、この町内にカルチャーセンターなんてあったかなぁ?

 だが、選挙カーのウグイス嬢がそう言っているのだから、間違い
ないのだろう。
 それに、今朝はいつものウグイス奥様ではなく、文字通りのウグ
イス嬢の声である。どなたかが勇気を奮って進言したのであろうか?

 市議選に際しては、こうして移動選挙事務所ということを行う。
事務所を移動して、選挙戦の熱気を町内に行き渡らせるのである。
 当日、移動事務所になった場所には、多くの人が集められる。
 特に何をする、というのではない。ただ、事務所にいるだけ。そ
こに人間として存在することを要求される。
 これを「詰める」と言う。
 まるで、行楽のお弁当のいなり寿司のようだ。

 ただ、お茶を飲んでいるだけ。結構退屈である。

 昔は、選挙事務所では、食事が出たそうだ。
 食事と言っても、米飯と豚汁、またはおにぎりと漬物、もしくは
炊き込みご飯、といったシンプルなもの。大体この三つのメニュー
のうちのどれかが、選挙事務所で提供されていた。
 選挙期間中は、何時に行っても食事だけは出せるようにしておく、
というのが選挙運動の鉄則だった。
 いつでも、食事が出来るようにしておく、というのは簡単そうで
手のかかることである。それは駆り出された奥様たちの重要な任務
であった。
 市内に勤める人のなかには選挙戦が始まると、昼食の弁当を持っ
て行かない人もいた。
 今日は、あそこの事務所、明日はあそこの事務所、と昼食時に選
挙事務所で出される食事を当てにしていたのである。
 うーん、あそこの事務所の飯は良い米を使っている、とか色々評
価を下したりしていた。タダなのに言いたい放題。
 選挙における昼食グルメ評論家。
 迎える選挙事務所の人たちもヒートアップしているから、あなた
は、どちらの誰?とかは尋ねない。さぁー、食べていって下さい、
である。
 当時は、それが当たり前だった。
 あー、良い時代だなぁ。
 せめて市議選だけでも、食事の接待が復活しないものだろうか。

 そうもいかないことは、十分理解している。
 あらゆることは、変化し流れていく。
 この宇宙に永遠なものなど、何も無い。
 つかんで放さないことは、苦悩の原因となる。
 
 用事を済ませて、帰り道に移動事務所を見つけた。
 すっかり、しもた屋ばかりになってしまったその通りにある碁会
所のことを、カルチャーセンターと呼んでいるのであった。
 確かに囲碁もカルチャーである。
 それにしても、何でも外来語にして実体をぼやかそうとするのは、
ちょっと笑える。
 それとも、呼称の変更は費用のかからない一種のリフォームか。

 その移動選挙事務所には、沢山の人が集まっていた。
 何やら楽しそうに見えた。