通夜の式中「ご導師様に合わせて合掌」という場面が
何度かある。
葬儀業者が務める司会者が、参列者にそう呼びかけ
るのだ。
ご導師とは僧侶である。
言い方を変えて何とか格式を作りたいのだろうが、僧
侶は僧侶である。
何度目かの合掌の際、私はふと隣の席のKさんに目
がいった。
(えぇ、金剛合掌!)
Kさんも合掌している。
だが、その合掌は普通の合掌ではなかった。
金剛合掌なのだ。
金剛合掌とは、真言宗で行われる合掌である。
多宗派では行われない。
K家は曹洞宗である。
それなのに金剛合掌である。
金剛合掌は密教の印の一種とも考えられている合掌
の仕方である。
この合掌により神秘的な力が働くと教える者もいる。
Kさんは仏教にはまり込んでいるようだ。
本などで知った知識なのだろうか?
それとも誰かに教わったのだろうか?
私はK家の宗派を知っているので、異様な感じにしか
見えない。
老境に、それも晩年になり自己流で宗教探求は危険
である。
引き返すことは難しいし、やり直しも効かない。
危ない行路だと思うが、私は家族、親族ではないの
で傍観するしかない。
~続く~