不二家憩希のブログ

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フォーク版”刑事コロンボ”の誕生 その⑯

警部の人物設定を原作からいくつも変更した。
 その一つに、コロンボ警部の話し方、物腰があ
る。
 ”刑事コロンボ”のパイロット版である”殺人処
方箋”収録の際のことである。
 フォークはコロンボ警部が聞き込みを行う際に、
その語尾に「サー Sir、マダム Madame」と付け
加えたのだ。
「英語には敬語はない」と言われることがあるが、
これにはいくつか意見が分かれる。
 しかし「丁寧な言い方」「丁重な物言い」は、間
違いなく存在する。
 語尾に「サー」とつけるだけで随分違ってくる。
 これは、へりくだった丁寧な言い方になるそうだ。
 日本語には馴染みのない言い回しだが、その
人の態度を顕著に表す言葉のようだ。
 ”刑事コロンボ”では、吹き替えでは特に訳され
ていないが、他のセリフの訳に影響を与えている。
 フォークは、この「サー・マダム」を付け加える言
い方を、とっさのアドリブで付け加えたのだそうだ。
 その他にも「何と仰いました?」という言い方も
使った。
 警察の刑事が、そんな丁寧な言い方をするとは、
異例である。
 普通はぶっきらぼうだったり、良くて普通の言葉
使いである。
 フォークは制作スタッフから「どうしてそんなこと
をするんだ」と言われた。
 アドリブを禁止されている撮影現場は、珍しくない。
 ”刑事コロンボ”の撮影現場は、後に主役締め出
しを決行するくらいである。
 アドリブを許す空気はなかった。
 フォークは「コロンボは生まれながらに礼儀正しい
ものだから」と、その場で言い繕った。
 フォークにしてみればこのアドリブは、特に理由が
あるものではなかった。
 ただ、「何故だ」と問われたので、そう答えたまで
だった。
 アドリブとは、本来そういうものである。
 その俳優の才気の一部が瞬間的に発散されるも
のがアドリブである。
 考え尽くしてこそ良いものが出来る、と考えるのが
脚本家サイドである。
 両者は、元々違う生き物なのである。
 そして、結果的にはこのフォークのアドリブは良い
効果をもたらし、コロンボ警部の人物設定の一部と
なった。
 才能のある俳優は演じている正にその現場におい
て、新たな創造行為についているのである。
 
 ~続く~