不二家憩希のブログ

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フォーク版”刑事コロンボ”の誕生 その⑰

 ピーター・フォークは自分のアイディアを作品に
盛り込むために、とった手法は主にふたつある。
 一つめは事前に「セリフのこの部分が気に入ら
ない」とスタッフにクレームを入れる。
 これは、相手に対応する時間の余裕を与えるが、
それだけに問題が大きく膨らむ可能性がある。
 そもそも、俳優が脚本にケチをつけること自体が、
制作サイドにとっては好ましいことではない。
 それを許さない空気もあるだろう。
 となると、他にはどのような方法があるだろうか。
 それは、アドリブである。
 演技の最中に演技内容を変えてしまうのである。
 変えるのは、単にセリフだけのこともあるし、演技
そのものの場合もある。
 監督によっては、セリフの一字一句を変えるな、
と言うポリシーの監督もいる。
 そうした場合には、難しくなってくるが、中には「セ
ンスの良いアドリブなら認める」という監督もいる。
 また、アドリブのためそれを受ける俳優もそれなり
の技量が無ければ、芝居が破綻しまう。
 うまくいくか、いかないか、アドリブが採用されるか、
されないかは、やってみないとわからない。
 フォークは、その点大胆でスマートだった。
 スムーズにアドリブを入れてしまうのだ。
 ”刑事コロンボ”に、時折こんなシーンがあった。
 聞き込みを行うコロンボ警部が、取り調べのメモを
探そうとレインコートのポケットに手を入れる。
 手にしたメモをコロンボ警部が読んでつぶやく。
 「牛乳が○本に卵がいくつ」
 「パン一斤にレーズンが一箱」
 コロンボ警部は「今朝かみさんに頼まれましてねぇ」
 そう言ってもう一度メモを探す・・・。
 このアドリブを受けた相手の俳優は、驚きと笑いの
混じった演技を超えた自然な表情になる。
 視聴者も、コロンボ警部のユーモラスなキャラク
ーが強く印象づけられる。
 ”刑事コロンボ”にどの程度フォークによるアドリブが
含まれているのかは明らかではない。
 だが、相手の俳優が吹きだしそうになっていたり、
心底驚いているように見えるシーンではフォークのア
ドリブが炸裂したものと私は見ている。
 
 ~続く~