ピーター・フォークは自分のアイディアを作品に
盛り込むために、とった手法は主にふたつある。
一つめは事前に「セリフのこの部分が気に入ら
ない」とスタッフにクレームを入れる。
これは、相手に対応する時間の余裕を与えるが、
それだけに問題が大きく膨らむ可能性がある。
そもそも、俳優が脚本にケチをつけること自体が、
制作サイドにとっては好ましいことではない。
それを許さない空気もあるだろう。
となると、他にはどのような方法があるだろうか。
それは、アドリブである。
演技の最中に演技内容を変えてしまうのである。
変えるのは、単にセリフだけのこともあるし、演技
そのものの場合もある。
監督によっては、セリフの一字一句を変えるな、
と言うポリシーの監督もいる。
そうした場合には、難しくなってくるが、中には「セ
ンスの良いアドリブなら認める」という監督もいる。
また、アドリブのためそれを受ける俳優もそれなり
の技量が無ければ、芝居が破綻しまう。
うまくいくか、いかないか、アドリブが採用されるか、
されないかは、やってみないとわからない。
フォークは、その点大胆でスマートだった。
スムーズにアドリブを入れてしまうのだ。
”刑事コロンボ”に、時折こんなシーンがあった。
聞き込みを行うコロンボ警部が、取り調べのメモを
探そうとレインコートのポケットに手を入れる。
手にしたメモをコロンボ警部が読んでつぶやく。
「牛乳が○本に卵がいくつ」
「パン一斤にレーズンが一箱」
コロンボ警部は「今朝かみさんに頼まれましてねぇ」
そう言ってもう一度メモを探す・・・。
このアドリブを受けた相手の俳優は、驚きと笑いの
混じった演技を超えた自然な表情になる。
ーが強く印象づけられる。
”刑事コロンボ”にどの程度フォークによるアドリブが
含まれているのかは明らかではない。
だが、相手の俳優が吹きだしそうになっていたり、
心底驚いているように見えるシーンではフォークのア
ドリブが炸裂したものと私は見ている。
~続く~