不二家憩希のブログ

はてなブログに引っ越してきました。

住めば都・山間部編 その⑤

 そのおばさんの自宅は山のてっぺんにある。
 地元では、そのあたりの住所は山奥の代名
詞になっているような地域である。
 地元の人ならそこの住所を聞けば「そこに
住んでいるの?出てきたの?」と尋ねたくな
るような山あいなのである。
 電気は通っているので秘境とは言えないが、
見渡す限り山しかないようなところである。
 地元の人間なら、おばさんの住まいの住を
聞けばクルマで後をついて行く、などという
気にはまずならないだろう。
 だが、そこは催眠商法の営業マンである。
 周到なように見えて、そうでもない。
 事前に大体の住所も聞かないのだから、や
はり抜けているのだろう。
 あるいは、欲に目がくらんのだろうか。
 それとも、おばさんを軽く見ていたのか。

 おばさんのクルマは、どんどん走っていく。
 市街地を離れると、沿線もだんだん寂しく
なっていく。
 商店も住宅地もクルマが進むにつれて少な
くなっていく。
 そしてクルマは山道に入っていく。
 おばさんは、年中この山道を走っているの
で運転も達者なものである。
 山道もふもとあたりならまだしも、上るに
連れてカーブが急になっていく。
 対向車が直前になるまで見えなくなってく
る。
 それでもおばさんのクルマはスピードを落
とさない。
 自宅は止まんてっぺんなのだから当然であ
る。
 山道は慣れないとうまく運転出来ないもの
だ。
 沿道には家などはなく木が空に向かって伸
びているだけだ。
 おばさんのクルマは、綺麗にカーブを切っ
て進んでいく。
 そして、山道を大分行ったところで催眠商
法の営業マンがクラクションを鳴らした。
 それからスピードを上げておばさんのクル
マの前に出て止まった。
 
 ~続く~